大阪公立大学 図書館には、独創的な農耕文化の系譜論を展開し、照葉樹林文化論を提唱した故・中尾佐助大阪府立大学名誉教授の旧蔵書を含む大量の研究資料(中尾佐助コレクション)が保管されています。
中尾佐助コレクションは氏本来の研究領域である民族植物学や育種学を基盤とし、世界各地への野外調査を通じて渉猟された資料は、種(タネ)から食へ、また景観に繋がる人間の営みを総合的に捉える視点により構成され、農耕文化、食文化、園芸文化、文化認識論の要素まで広く及んでいます。中尾佐助資料のうち、旧蔵書(図書約3,500冊、雑誌60タイトル)は本学の図書館システムに登録し、中尾佐助コーナーに排架して利用に供しています。利用の申し出も多く、学術情報センターの長尾文庫や貴重図書と連携して本学図書館の特色あるコレクションを形成しています。
資料類は情報媒体ごとに分類・整理し、その目録『中尾佐助文献・資料総目−照葉樹林文化論の源流』(大阪府立大学総合情報センター(現学術情報センター),
1997年3月、159p)は、学会関係者・諸機関に配布しました。
中尾佐助資料は、著書・論文・記事類、オリジナル資料類、研究用資料類、参照資料類の4つに分けられます。スライドデータベース化事業では、インターネットを通じて広く内外の研究者に提供する目的でオリジナル資料類のスライド、スクラップブック、遠征アルバム、フィールドノート等のうち、フィールド科学および照葉樹林文化論研究に関連するスライド画像を2期に渡って電子化しました。第一段階ではブータン探検(1958年)に関するスライドを電子化し、第2段階では、すべての探検で撮影されたカラースライドを電子化して、スライドデータベースを構築しました。
また、一般公開用の画像ファイルだけでなく研究者が画像に対する注釈や新たな解釈などを順次書き込みできる研究者用ファイルを作成し、中尾佐助資料を基盤として照葉樹林文化論を深化発展させ体系化する研究活動を支援し、学術の発展に寄与することも目標としています。
スライドは1955年のカラコラム遠征から1984年の雲南調査まで約28,000枚ありますが、古い年代のものは退色やカビ等による劣化が進んでいます。まず、第一期には1958年のブータン踏査で撮影された約1,300枚のスライドについてデータベース化を終え、図書館ウェブから公開しました。第一期事業では、おもに下記の理由によりコンパクトなデータベースを作成しました。
ブータンの著作
『秘境ブータン』(毎日新聞社 1959、社会思想社 1971再刊)
本書は、ブータン王室の招待で日本人として初めてブータン入りを果たし、秘境ブータンを広く世に紹介した踏査記 録である。1960年第8回エッセイスト・クラブ賞を授賞。
『ヒマラヤの花』(毎日新聞社 1964)
本書は、ブータン、シッキム、東ネパールにおける探検で撮影された画像から構成されている。高山の野生種の生 態と多様性がまとまっている。
『ブータンの花』西岡京治共著(朝日新聞社 1984)
本書は、コロンボプランによってブータンに派遣された西岡京治氏の長期にわたる現地滞在で撮影された画像と1958年および1981年の中尾佐助による撮影画像から構成されており、ブータンの自然の花を良くまとめている。終章にはブータンの民族植物学が記述されている。本文は英文と日本文で書かれている。
ブータンのフィールドノート 3冊
25回に渉る海外探検調査のうち記述内容の最も多いフィールドノートである。中尾先生は、フィールドノートを補完するたくさんの写真を撮影している。「フィールドノート論」(TBS調査時報 no.271,
1981.10)では、フィールドノートは、“場所と日時、主な景観と主要対面者、その日の事件など記憶再生の手がかり程度のもの”であると記述しているが、ブータン1958年の探検に関する3冊のノートは、キャンプ地や移動ルートの行程も詳しく明記されており、スライド画像の特定にたいへん有用である。
ブータンのアルバム 12冊
モノクロ写真をまとめたものである。『秘境ブータン』などの著作に使われた写真はこれから製版されている。
平成18年(2006年)4月から「財団法人 国際花と緑の博覧会協会」よりの助成と大阪府立大学学長裁量経費により、中尾佐助探検スライドデータベースが増補改訂された。ブータン1958年の画像も再度スキャンし、すでに公開していた画像とレプレイスした。すべてのコマに、撮影日、場所、キーワード、著作情報(書名およびキャプション)を関連づけ、参照できるようにした。閲覧者によるコメントを蒐集するための書き込みフィールドを準備し、研究利用登録者に公開している(一般公開は準備中)。
カラースライド28000枚をデータベース化し、2008年2月28日に一般公開した。
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